1.研究の標題
英語では,「Science and Technology for All Japanese」とする。また,本プロジェクトのドメイン名は,英語の省略形で「Science_for_all」である。
本研究の標題は,「日本人が身に付けるべき科学技術の基礎的素養に関する調査研究」(平成18・19年度科学技術振興調整費「重要政策課題への機動的対応の推進」)である。
略称として,「21世紀の科学技術リテラシー像~豊かに生きるための智~プロジェクト」また,もっと短く,「科学技術の智」プロジェクト と称する。
2.研究の組織
(1)研究代表者
北原和夫 国際基督教大学教授(企画推進会議委員長)
執行機関:内閣府日本学術会議,文部科学省国立教育政策研究所
(2)研究組織
評議会(会長:有馬朗人)
企画推進会議(委員長:北原和夫,副委員長:伊藤卓・室伏きみ子)
[企画推進会議は,日本学術会議「科学と社会委員会」(委員長:鈴村興太郎)
の「科学力増進分科会」(委員長:毛利衛)の中の小委員会に位置付けられる。]
専門部会:7専門部会
数理科学専門部会(専門部会長:浪川幸彦)
生命科学専門部会(専門部会長:星 元紀)
物質科学専門部会(専門部会長:岩村 秀)
情報学専門部会(専門部会長:筧 捷彦)
宇宙・地球・環境科学専門部会(専門部会長:西田篤弘)
人間科学・社会科学専門部会(専門部会長:長谷川寿一)
技術専門部会(専門部会長:丹羽冨士雄)
広報部会(部会長:渡辺政隆)
事務局(事務局長:長崎栄三)
3.研究の目的
一般的な大人が身につけておくべき科学技術の基礎的知識や考え方を,身近に,生活に密着して理解できるよう,従来の学問分野や教科の枠を超えて整理し,体系的にまとめたもの(科学技術リテラシー像)の作成に向けた調査研究を行う。
本プロジェクトでは,科学技術リテラシーを,「成人段階を念頭において,全ての人々に身につけて欲しい科学・数学・技術に関係した知識・技能・物の見方」としている。
科学技術リテラシー像とは,その科学技術リテラシーをわかりやすく具体化して,文章化したものである。このような科学技術リテラシーには「21世紀の日本」が前提とされており,時代の進展とともに更新されていくべきものである。
4.これまでの研究の経緯
平成15年に,日本学術会議(第19期)に「若者の理科離れ問題特別委員会」(委員長:北原和夫)(後に「若者の科学力増進特別委員会」と改称)が設置され,我が国において科学技術教育の目標が明示されていないことや,目標についての国民的議論がなされていないことが指摘された。そこで,先行している米国における科学技術リテラシー構築のためのプロジェクトを参考にして,我が国においても科学技術リテラシー像作成の可能性と意義を検討することが必要とされた。
平成17年度に,我が国の科学技術リテラシー像を作成するための課題整理と基盤整備を行うことを目的として科学技術振興調整費による「科学技術リテラシー構築のための調査研究」(研究代表者:北原和夫)が発足した。研究機関は,国際基督教大学(中核機関),国立教育政策研究所,お茶の水女子大学,日本学術会議の4機関とし,約70名の科学者,教育者等が参画して,次の3つのテーマを設定して,研究を行ってきた。
・科学技術リテラシーに関する先行研究・基礎文献に関する調査(代表:長崎栄三)
・科学者コミュニティや産業界等の国民の科学技術リテラシーに関する意見集約・類型化調査(代表:服田昌之)
・科学技術リテラシー像の策定に関する検討課題に関する分析(代表:北原和夫)
それぞれの研究成果は,報告書としてまとめられている。
5.科学技術リテラシー像の必要性
現代の我が国において,科学技術リテラシー像を作成する意義・必要性は,次の4つにある。
(1)科学技術についての判断
現代においては,科学技術と社会は密接につながってきており,人々は環境問題や人口問題,情報技術などに関して科学技術のあり方についての判断を迫られることが多い。したがって,基本的な知識,考え方を人々が共有することによって,判断の根拠を共有できることが望ましい。
(2)科学技術についての世代間の継承
社会における科学技術について,人々が共通な基盤で考え,将来の豊かな世界の構築のために協働していくためには,科学技術についての知識や物の見方を次世代に継承して,世代間で共有していく必要がある。
(3)学校教育における理科,算数・数学,技術の学習の長期的展望
小学校・中学校・高等学校において,理科,算数・数学,技術を学ぶ目的が問われ始めている。児童・生徒は,これらの教科をあまり楽しんではおらず,また,これらの教科と現実体験との関係も見出せずにいる。我々は,知識が智となっていく過程を重視し,長期的展望の中で教科を活かしていかなければならない。小中高校における理科,算数・数学,技術の学習の目的について児童・生徒に長期的展望を示すことが必要である。
(4)科学技術教育の生涯にわたる目標の俯瞰
変化の激しい社会において,人々は生涯にわたって学ぶ必要があり,また,人々は己の目的に向かって自己実現を追究するようになってきており,生涯にわたる多様な学習の進路を用意することが求められるようになってきている。
6.科学技術リテラシー像に期待されること
科学技術リテラシー像は,指針,素材,推進力,となることが期待される。具体的には,次の通りである。
(1)指針としての科学技術リテラシー像
①人々にとって,身につけるべき基礎的知識・考え方・行動の指針となる。
②科学館・博物館・学校等で活動内容を検討する際の指針となる。
③メディアが科学技術コミュニケーションを考えるときの指針となる。
④政策担当者が科学技術と社会に関する政策を判断するときの指針となる。
(2)素材としての科学技術リテラシー像
①人々の科学技術への理解・関心を高める素材となる。
②人々が科学技術の内容・重要性・必要性を理解する素材となる。
③教員・科学者・技術者等が科学技術を説明する素材となる。
(3)推進力としての科学技術リテラシー像
①科学技術リテラシー像を作成する過程で,科学技術の意義や科学技術と社会との関係についての人々の関心が高まり,理解が進む。
②科学技術リテラシー像を作成する過程で,科学技術リテラシーの向上に関する国民と科学者等関係者との協働関係が強化される。
7.我が国における科学技術リテラシー像作成の基本方針
我が国で「科学技術リテラシー像」を作成する場合には,我が国の現在の時代的背景,文化的背景などを踏まえなければならない。我が国で「科学技術リテラシー像」を作成するための基本方針を以下のものとする。
(1)日本人の感性や伝統を考慮する
日本人にとって,関心事であることが必ずしも世界的な関心事と一致しないこともあり得るし,またその逆も言える。例えば,日本人が発想してきた生物の分類は,人間との関係の中で考えられている。また,日本では自然を大切にし,自然と調和して生活しつつ自然を使いこなす技術は極めて高いものがある。一方で,原理的問いかけや発想が少なかったと言われている。このような日本人の感性,伝統を踏まえつつ,目指すべき「科学技術リテラシー像」を構築することこそ,日本のすべての成人が科学技術を身近なものにする要諦といえよう。
(2)新しい時代の科学技術に即応する
近年,情報環境が大きく変化し,情報へのアクセスが容易となった。それは,情報の公開,共有と言う点では民主主義社会の基盤の充実に寄与しているものの,一方で一瞬にして情報が世界を巡り,情報の乱用,情報の操作,情報の占有等によって,民主主義の根幹が揺らぐことになるという問題をも抱えている。
また,デバイスの開発も競争原理で急速に進んでおり,電子デバイス,光デバイス,分子デバイス,分子制御による機能分子の開発など,分子レベルの物質制御によって様々な人工物をデザインし創り出すことができる時代に我々は生きている。そして,その影響については予測できない部分もある。環境問題も京都議定書を契機に世界的な課題となっている。二酸化炭素,水質保全,地球温暖化,異常気象など,世界的な課題が変化してきていると思われる。
また,技術,科学,芸術が融合して,生活の質,豊かさを求める感性を大切にすることも重要となってきている。最近のモルフォ蝶の色の研究などにみられるように自然の美しさを読み解くような科学と技術のあり方が人類の感性をさらに豊かにするものと期待される。
さらに,科学と技術との相互依存関係が深まり,「科学を基にした技術」を越えて,科学と技術とが錯綜したものとして「科学技術」が既に現実となっているとの認識を踏まえる必要がある。
(3)技術も重要な柱とする
日本では技量が重視されてきたという歴史的事実を踏まえて,「技術」も重要な柱として位置づけることが必要である。すなわち,日本における経済発展の原動力としての技術の位置づけや「ものづくり」の伝統,「技術リテラシー」の議論などから,これから作成する科学技術リテラシー像においては,技術も重要な柱とすべきである。
(4)成人段階で考える
我々の科学技術リテラシー像においては,対象を成人段階に考えている。成人とは,社会の構成員として責任ある個人という意味であり,年齢を特定するものではない。すなわち,具体的には,高等学校までの教育だけでなく,大学の教育のあり方及び生涯教育をも視野に入れる。
(5)専門分野を総合する
科学技術リテラシー像の作成のための基礎的検討は専門分野別の結果を踏まえて,総合的に作成する。
(6)すべての人との対話を重視する
科学技術リテラシー像作成においては一般の人々との対話を重視する。
8.科学技術リテラシー像の作成の要件
科学技術リテラシー像を作成する上では,総合的な科学技術リテラシー像と,科学技術の専門分野の個々のリテラシー像を作成する。後者の検討を行いながら,それらを総合する形で前者が作成される。最終的な目標は,総合的な科学技術リテラシー像であるが,科学技術の専門分野の個々のリテラシー像の検討においては,それぞれの分野の詳しいリテラシー像が描かれることになる。
(1)科学技術リテラシーの専門分野別の報告書
科学技術の専門分野として7つの分野を設けて,それらの7つの専門分野の部会によるそれぞれのリテラシーに関する報告書を作成する。
数理科学(Mathematics),生命科学(Life Science),物質科学(Materials Science),
情報学(Informatics),宇宙・地球・環境科学(Universe, Earth and Environment Sciences),
人間科学・社会科学(Human and Social Sciences),技術(Technology)
そして,これらの専門部会の成果を活かし,また,それらを総合して,「科学技術リテラシー像」が作成される。
(2)科学技術リテラシー像の構成
科学技術リテラシー像は,例えば150頁から200頁くらいの文章としてまとめられる。科学技術のそれぞれの専門分野のリテラシーを総合して,ひとまとまりの科学技術リテラシーとして記述する。科学技術リテラシー像の構成を以下のものを基本とする。
科学技術リテラシー像の項目(案)
前書き
第1章 科学技術の本質
1.科学の本質 2.数学の本質 3.技術の本質
第2章 各論
1.数学的世界 2.生命 3.もの(物質)4.情報社会
5.環境(宇宙,地球,環境)6.人間と社会 7.技術
第3章 全体像
1.歴史的観点 2.共通の考え 3.科学的精神
第4章 将来へ
1.知恵の継承と共有 2.教育の改革へ
(3)専門部会の科学技術リテラシー像作成の前提
専門部会は,現在の学問の体系の中で,成人段階のすべての人々にとって意味があるのは何かを議論する。専門部会が議論を始める前に,専門部会におけるリテラシーに関する議論の前提について,企画推進会議・評議会で決めておく必要がある。
議論の前提としては,目指している科学技術リテラシーである「成人段階を念頭において,全ての人々に身につけて欲しい科学・数学・技術に関係した知識・技能・物の見方」に加え,次のことが考えられる。
①現代社会における科学技術の意義を問う。
②人間にとっての意味を考える。
③白紙状態から考え,先入観を入れない。
④現在の教育の限界を考えず,理想型を求める。
⑤本質的な知識と能力の中核部分だけを明示する。
⑥対象としてすべての成人を考える。
⑦日本の科学技術の現状,伝統,感性,文化を踏まえる。
9.科学技術リテラシー像作成のための組織の役割
科学技術リテラシー像を作成するための研究組織は,評議会,企画推進会議,専門部会,広報部会,事務局からなり,図1の通りである。
(1)評議会
本プロジェクト全般について総合的に検討し,その方向性を定める組織である。科学技術や人文科学などの学界,産業界,教育界など科学技術リテラシーにかかわる各界を代表する有識者からなる。
(2)企画推進会議
科学技術リテラシー像作成の企画推進をし,総合的な報告書をまとめ,科学技術リテラシーの定着化に向けた普及方策を立てる組織である。各部会長,科学技術リテラシーにかかわる有識者などで構成される。企画推進会議委員長は,このプロジェクト全体を運営する。
企画推進会議は,日本学術会議「科学と社会委員会」(委員長:鈴村興太郎)の「科学力増進分科会」(委員長:毛利衛)の中の小委員会に位置付けられる。
企画推進会議の中に,委員長,事務局長,各専門部会長等からなる幹事会を設ける。また,全体の運営を迅速に効率よく行うために,適時,委員長,副委員長,事務局長から成る三者会議を開くものとする。
(3)専門部会
専門部会は,科学技術リテラシーの専門分野別のリテラシー像を検討する組織である。それぞれの部会は,当該主題ならびに隣接領域に関わる専門家,社会・人文系の専門家,ジャーナリスト,当該分野・関連分野の教育に関する専門家,などで構成する。
専門部会として,数理科学,生命科学,物質科学,情報学,宇宙・地球・環境科学,人間科学・社会科学,技術,の7部会を設置する。
(4)広報部会
科学技術リテラシー像の普及活動や,科学技術リテラシー像作成過程に対して国民から広く意見を収集することなどを行う組織である。
(5)事務局
科学技術リテラシー像作成の企画運営に携わるととともに,庶務や会計などの事務を担当する組織である。
10.科学技術リテラシー像作成のスケジュール
本プロジェクトは,平成18年11月から始めて,平成19年度で終わる。スケジュールを大まかにまとめると次の通りである。
平成18年11月 | 研究組織の立ち上げ |
平成18年12月 | 研究の枠組みの検討 |
平成19年3月 | 専門部会シンポジウムの実施 |
平成19年4月~ | 専門部会によるリテラシー像の検討 |
平成19年8月 | 第1回全体シンポジウムの実施 |
平成19年9月~ | 企画推進会議幹事会によるリテラシー像の検討 |
平成19年10月 | 専門部会報告書作成 |
平成20年2月 | 第2回全体シンポジウム |
平成20年3月 | 全体報告書作成 |
各月の主な目標は次の通りである。
平成18年11月(企画推進会議幹事会1回)
・第1回幹事会(企画推進会議幹事会):リテラシー像の全体概念設計,各専門部会で検討する領域の素案作成
平成18年12月~平成19年2月(評議会1回,企画推進会議3回,幹事会1回,専門部会各3回)
・第1回企画推進会議:リテラシー像の全体概念設計,各専門部会の検討領域の検討
・第2回幹事会:リテラシー定着方針の検討
・第2回企画推進会議:リテラシー像の全体概念設計,各専門部会の検討領域(案)決定
・第1回評議会:リテラシー像の全体概念設計,各専門部会の検討領域(案)決定
・各専門部会(第1回~第3回):リテラシー像として盛り込むべき項目及びその内容のたたき台作成。専門部会中間報告書(骨子案)としてとりまとめ
・第3回企画推進会議:専門部会中間方針案の審議
平成19年3月(幹事会1回,専門部会各1回,専門部会シンポジウム各1回)
・各専門部会シンポジウム:リテラシー像(案)のイメージ,内容について周知するとともに,関係者からの意見を聴取
・各専門部会(第4回):シンポジウムの結果を反映させ,専門部会中間報告書をとりまとめ
・第3回幹事会:リテラシー像定着のための広報戦略の検討(広報部会と合同)
平成19年4月~6月(評議会1回,企画推進会議2回,幹事会1回,専門部会各3回)
・第4回企画推進会議:各専門部会がまとめた中間報告書の全体調整(領域の見直し,盛り込むべき項目の見直し,必要に応じ,リテラシー像取りまとめ方針の見直し等),広報戦略案の決定
・第2回評議会:専門部会中間報告書の全体調整,広報戦略の決定
・第4回幹事会:リテラシー像定着のための方策の検討・立案
・第5回企画推進会議(拡大会議):専門部会中間報告に対する特別委員等による難易度の観点からの審議,専門部会に対する意見の取りまとめ
・各専門部会(第5回~第7回):2月のシンポジウムの結果及び4月の評議会・企画推進会議の結果を踏まえ,リテラシー像の項目,内容等について再検討(項目,内容の追加や削除,他の専門部会報告書との内容の連携等)
・6~7月頃海外調査を行う(「像」の普及定着に向けた施策の調査)
平成19年7月~8月(企画推進会議2回,全体シンポジウム1回)
・第6回企画推進会議:全専門部会の最終報告書案につき審議,定着方策案の審議
・第7回企画推進会議(集中審議):全専門部会の最終報告書案につき審議,定着方策案の審議
・第1回全体シンポジウム:リテラシー像(案)のイメージ,内容について周知するとともに,一般国民からの意見を聴取
平成19年9月~12月(企画推進会議2回,幹事会4回,専門部会各2回)
・各専門部会(第8回~第9回):7月,8月の全体検討,シンポジウムを踏まえ,最終報告書とりまとめ
・第5回幹事会:リテラシー像の検討開始
・第6回幹事会:リテラシー像の検討
・第7回幹事会:リテラシー像の検討
・第8回企画推進会議:全専門部会の最終報告書案につき審議・了承,リテラシー像の検討
・第8回幹事会:リテラシー像の修正
・第9回企画推進会議:リテラシー像の検討
平成20年1月~2月(評議会1回,企画推進会議2回,幹事会2回,全体シンポジウム1回)
・第9回幹事会:リテラシー像の修正
・第10回企画推進会議:リテラシー像の審議,決定,定着方策の審議,決定
・第3回評議会:「科学技術リテラシー像及び定着方針の審議,決定(その後の取扱いは企画推進会議に一任
・第2回全体シンポジウム:リテラシー像の内容及びリテラシー像定着に向けた取組戦略について意見聴取,周知
・第10回幹事会:リテラシー像の修正の必要性の検討,振興調整費報告書案の作成
・第11回企画推進会議:リテラシー像の見直し,振興調整費報告書案の審議
平成20年3月(企画推進会議1回)
・第12回企画推進会議:振興調整費研究報告書取りまとめなお,これらの期間全体を通じて,広報活動(HP等による情報発信,マスメディアや各種会議等を活用した説明など)を実施する。